仕事で遺言書の作成に関わることがあります。自筆証書遺言(自分で書く遺言)のアドバイス・チェックをしたり、公正証書遺言(公証役場で作る遺言)の証人になったりします。

 遺言というと「死」をイメージするので、なかなか口に出すことができず、以前はタブー視されていた感じがしました。私が相談を受けて遺言を残すことを勧めても、顔を曇らせる方もいらっしゃいました。

 しかし、近頃は遺言の相談が増えているのを実感しています。遺言についてある程度の知識を持って相談に臨まれる方もいますし、自分の死後の手続のことを積極的に質問される方も多くなっています。これは、テレビ・新聞・雑誌などで相続・遺言についての情報が多くなって、遺言が身近に感じられるようになったことが一因だと思います。

 また、お話をお聞きすると、親戚や知人の相続トラブルを見聞きして、遺言について考え始めたという方もいました。

 私の印象だと、10年前に比べて相続の手続がスムーズに進まないケースが多くなったような気がします。

 

 一つは手続的な面です。銀行や郵便局などの金融機関で預貯金などの名義替え・解約を行うのに、手続がより複雑になったように思います。相続手続は、ひとが一生に1度か2度くらいしか経験しませんので、たいていの場合は不慣れです。「手続きが大変で、まいった。」とよくお聞きします。

 

 別の要因は、「権利意識」にあるように思います。相続する財産には土地や建物も含まれ高額になる場合があります。そして、例えば「長男が同居して親の面倒をみて、家を継ぐ」といった意識が薄らいで、価値観が多様化しています。長男が「自分がすべての財産を相続する」と思っても、他の兄弟が必ずしもすんなり承諾するとは限らない場合があります。そのような意識の違いが、相続手続を困難にしている原因のひとつだと感じます。

 

 遺言のことを真剣に考えるのは、たいていは自分が遺言を残そうと思っている方です。年齢的には、私の親よりも上の世代が多いです。その方々は、誰しも家族に仲良く幸せに暮らして欲しいと願っています。「残された家族にいざこざがないように、過大な負担をかけないように」と気遣い、遺言を残しています。

 

 遺言について考え、残す過程で、今までの人生を振り返り、これからの人生や自分の死後のことを想像します。私はそこに、家族を思いやる気持ちとともに、ある種の覚悟のようなものを感じます。